SS(タイトル「夜想、螢火」)

河川敷を歩いていた、隣には髪の長い女性が、顔は靄がかかっていた。

彼女は適当な所に座って、ノートに万年筆で何かを書き始めた、隣に座っていた僕には何も見えなかった。

それからふと思い出したように彼女は川へ入った、浅い川だから、綺麗な白いワンピースが濡れることはないだろう、彼女は僕に手招きする、誘われるままに僕も川へ行く、ズボンを捲し上げる、水は冷たかった。

そうやって青春みたいな生活をしていた、そんな日がなぜか懐かしかった。日が暮れてきて、二人で家に帰っっているとき彼女は何かをいった、聞き取れなかったし、麦わら帽子の鍔が邪魔して表情がうまく読み取れなかった。

 

次の日は古書店に行った、暑い昼下がりだった、茹だるような暑さに負けて、木陰の下で氷菓を口に含んだ、そのまま夜が来て、親に泊まるって伝えてるくせにホテルも何も取っていなくて、野宿するために河川敷に行った、蛍が淡く光っていた、儚さが頬をつたった。彼女はまた何か書いていた。その晩なぜか眠れずに、僕は一人新亜の街を散策した、ネオンが煩かった。かの女は一人眠っていた。朝の4時になった、訳もなく僕は彼女を起こした、寝ぼけ眼が可愛いかった、夜明け間際の蛍を見た。

 

蛍をみると考えてしまう、彼女の愛はなんなのだろうかと、僕の愛と同じなのかと、多分違うし、そんなに考えることですらない。

 

僕は目が覚めた、甘い味がした、目から涙がこぼれていた、だって君はいないから、もう会えないから。